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最近見た映画の感想をつぶやくブログです。

映画「サイレントラブ」ネタバレ感想 主演の山田涼介が、本当に一言も喋らない。

映画「サイレントラブ」公式サイト↓

gaga.ne.jp

 

 

映画「サイレントラブ」を見て来ました。

すごく良かったです。

何が良かったって、この映画、正直言って別に涙が止まらないとか、ものすごく感動するわけじゃない。むしろどんよりとした気持ちになるし、見ててやりきれない。後味も、そこまでいいとは言い切れない。なのに、すごく良かったと思う。

 

ヒロインである盲目の音大生美夏(浜辺美波)は、交通事故で視力を失い、手術によっていずれ回復すると思われるも、不自由な体に苛立つ少女。

そして美夏の通う大学で働く、過去の事件で声を失った蒼(山田涼介)。

自暴自棄になった美夏が大学の屋上から飛び降り自殺しようとしたところを、仕事中に居合わせた蒼が力ぞくで引き止める。その時、蒼は美夏の落としたガムランボールを拾う。

 

まずこの映画のすごいところ。

主演の山田涼介が、本当に一言も喋らない。

喋ったのは、回想シーンに一言と、手紙を読み上げるシーンだけ。声を失った蒼が話すシーンは一度もない。

声を出すシーンといえば、雨の中叫ぶところだけど、そこも声は入らず、蒼の声帯からどんな音が出てるのかは、全く分からない。

 

目の見えない美夏の帰宅を後ろからつけていくシーンや、ガムランボールの音で美夏を導くシーンの、蒼の丸まった背中。それだけで、蒼の世界を諦めたかのような哀愁が伝わって来た。

一言も喋らないということは、それ以外ですべてを表現しなければいけないということ。表情や立ち方、歩き方に、蒼という人が滲み出て、すんなりと理解し、感情移入することが出来た。演技などは分かりませんが、山田涼介の表現力には驚きました。

 

蒼に名前を聞こうと手のひらを差し出した美夏でしたが、美夏の柔らかな白い手に、自分の汚れた(黒く汚れのついた、また罪を犯した)手で触れることが躊躇われた蒼。ズボンで手を拭ってから、恐る恐る美夏に触れます。

そんな蒼の手を、美夏はいつも自分を救ってくれた「神の手」と言いました。

初めて触れたときから、蒼の手がピアニストの手ではないことは、美夏には分かっていたはず。北村の演奏のように、心躍るような音色を響かせることは出来ないが、美夏にとってはそれ以上に、そんなごわついた蒼の指が愛おしく思えたのでしょう。

 

 

 

あとは山田涼介がとにかく黒い!

 

手も、顔も、とにかく黒い……そのせいで目も引っ込んで小さく見えるし、唇にも血色感がない。そもそも蒼は感情が顔に出ないし、異様に汚い感じがする。山田涼介なのに。

反対に美夏は優雅で美しく写されていて、その対照的さが良い。光を反射するまつ毛、清潔感のある服装。蒼の友達や職場、行きつけの店など、蒼が身を置くコミュニティは全体的に暗く表現されて、美夏のシーンは爽やかで、儚げで……

 

全く違う世界を生きる二人の対比が素晴らしく、まさに映像だから出来る表現だと思った。

 

 

 

というかこの作品、登場人物が誰も悪くない。あの伊達メガネ坊主以外は。

美夏が北村を傷つけてしまったのも、見えないんだから仕方ないし、蒼が今こんなことになってるのも、過去に蒼がしてきたことが一因でもあると思う。勿論、生まれや育ちも関係しているかもしれないけど。蒼が捕まったのも、蒼がやりたくてやったことだし。

北村は悪い遊びはしていたけど、10万も払えないという蒼に5万で演奏してやり、蒼や美夏には向き合ってくれたし、蒼の友達も、結果的に悲劇を招く行いだったとしても、自分のせいで声を失った蒼を守ろうとしてくれたわけだし、蒼の声帯も、自分を守るためだったとはいえ盾にされたわけでもなく、蒼が自分で決めてやったことだしね。

 

全員悪くないからこそ、行き着く先がやりきれないものでも、受け入れるしかないと思えてしまう。「もうこれは仕方がないことだ」っていうそういうあきらめを、鑑賞するこちらにまで抱かせてしまうのがこの映画の魅力だと思う。

 

 

 

 

あと気になるのは、美夏の罪を被った蒼が「なぜ友達(北村)にこんなことをしたのか」と聞かれ「嫌いだったから」と答えた理由。

 

「あいつは全部持っているから、嫌いだった」と蒼は書いたけど、他人が美夏と楽しそうにピアノを弾くところを窓の外から覗くしか出来ないこと自分は触れることさえ出来ないピアノを北村は自由自在に奏でられること、高い車なんか持っていなくて手や服は泥だらけで、家族の描写はなかったけれど、学生時代を見れば家庭環境もさほど良くなかったと思われるが、北村の家族仲は良さそうだったし、とても良い暮らしをしているように見えた。

確かに蒼が持っていないものを北村は全て持っていて、蒼がそこに劣等感を覚えるのも不思議ではない。北村を襲った連中に俺たちは同類と言われて、蒼もそちら側だと自覚したかもしれない。なにしろ、蒼はなにも喋らないから、その時蒼が何を考えていたか、私たちには知る由もない。

 

もしかすると「あいつは全部持っているから」は襲ってきた彼らの言い分を想像して答えただけかもしれない。だけどその時だけは、普段表に出さない蒼のほんの少しの本音が出た瞬間なのかもしれない。

 

 

 

最後、蒼を探しに来て車を降りてきた美夏が、綺麗なパンプスで泥の水たまりを踏みつけるシーン。

きっと蒼たちでは買えないような服と靴を纏った美夏が、躊躇なく泥水へ足を突っ込む描写は、美夏が自分とは違う蒼の世界に自ら降りようとしていることを表現しているように感じ、蒼が再びその神の手で美夏を救って泥まみれになった時、ようやくふたりの世界は一緒になったのだと思う。

 

 

 

サイレントラブ、良い映画でした。

 

タイトルである「サイレントラブ」の意味は、そのまま取れば、

声の出ない蒼との「無音の愛」

そして、本当の自分を隠し欺いた「秘密の愛」

未来ある美夏のために別れを告げる「抑圧した愛」

どの意味でつけられたタイトルなのか、個人的には気になるところです。

 

 

私は普段文章を学び、書く人間ですが、映像は、色彩や音、表情やアングル、「○○は○○をして」と細かく説明しなくても表現が出来るところが面白いです。

 

主人公が声を失った男であり、そんな彼との恋愛の物語だからこそ、「言葉なんていらない」表現のよく映えた、美しい映画でした。